手指の骨折後の後遺障害のお客様です。
被害者は、右手第一中手骨骨折及び左小指基節骨骨折等の傷害を負い、右母指の可動域制限及び左小指変形等の後遺症が残りました。
これらのうち、右母指の可動域制限については、特に問題なく10級7号が認定されます。しかし、左小指変形については簡単ではありません。すなわち、手指の後遺障害としては、変形障害は等級が定められていないのです。したがって、少し違うが似ている後遺障害等級を準用し、それに相当すると認めてもらう必要があります。
本件についても他の事件と同様、自賠責に対して被害者請求を行ったのですが、その際、訴訟を意識して立証を行うよう心掛けました。具体的には、まずは①被害者の左小指の現状を写真撮影し、説明文を作成しました。更に②被害者の小指が変形することにより、可動域制限と同程度の機能喪失が認められることを、ビデオ撮影により立証しました。小指が使えないことによりグリップ力が大きく低下することを印象付けるには、いかなる動作が適切なのか、じっくりと考え、被害者との打ち合わせ及び撮影を繰り返しました。
これらの立証活動により、準用や相当という手法を明文根拠なく行うことに対して、一般的には非常に消極的な自賠責調査事務所に、明文根拠なき準用を行わせることができました。しかし、不十分だったのです。すなわち、自賠責調査事務所で準用が認められたのは「遠位指節間関節を屈伸できなくなったもの」という14級7号だったのです。これと右母指の10級7号は併合という処理をされるのですが、14級と10級を併合しても併合10級にしかなりません。併合で1級等級を上げるためには、左小指で13級以上をとる必要があります。
そこで、訴訟を提起し、被害者の左小指は用廃(重要関節の可動域が半分以下になってしまった状態)に等しく、13級6号準用が認められるべきであり、これと10級7号が併合され、併合9級となると主張しました。主張・証拠の中身は、自賠責被害者請求時と全く同じでしたが、判断主体が変わったこともあり、認めてもらうことができました。
このように、自賠責で望む等級がとれなくても、訴訟を利用してそれがとれることは、起こり得ます。ただし稀です。いや、極めて稀というべきかもしれません。ですから、このような成功事例を安易に一般化して、やたらと「訴訟をしましょう」と助言するのは、実は弁護士として誠実な態度ではないのです。
とにかく、後遺障害等級に関する不満をお持ちの方は、この問題に詳しい弁護士に相談してください。