世の中に、交通事故被害者救済をうたう法律事務所は少なくありません。それらの中でも別格の存在でありたい、私はそのような思いを押さえ切ることができず、平成27年9月1日、この大阪市天王寺区生玉前町に岸正和法律事務所を設立いたしました。
川端康成が、「明治から今日に至る文学隆興のなかで、最も豪華、爛熟の大輪、百花の王の牡丹花」と称えた谷崎潤一郎の代表作「細雪(ささめゆき)」の四姉妹が育った上本町に近いこの生玉前町には、古き良き大阪情緒が仄か(ほのか)に漂っています。また、事務所から谷町筋を西に渡れば、私の愛する文楽や歌舞伎と所縁(ゆかり)のある生國魂神社(いくくにたまじんじゃ、通称「いくたまさん」)さんに、また谷町筋を南に少々歩けば日本仏法最初の官寺であり、私個人にとって祖父の代より御縁のある四天王寺さんに、それぞれお参りすることができるこの地で、日々神仏の冥加(みょうが)を賜りながら、その御心(みこころ)に従い、交通事故被害者の方のお力となることができるよう鋭意努力する所存でございます。
私は、交通事故被害者の真の救済のために、
1.依頼者の利益を図ることに徹すること
2.弁護士・法律事務所が独立を貫くこと
3.地域社会の構成員としての使命を果たすこと
という3つを、この事務所の根本理念と定めました。
1は当然のことでしょう。しかし、「依頼者の利益」とは何か、また「貫く」とはどういうことかについて、弁護士が自己に甘く考えてしまうと、直ちに依頼者が獲得できる損害賠償額が減少してしまいます。日々、自己を厳しく律していかねばなりません。
2についてですが、本来、弁護士というものは何者からも独立した自由な存在でなければなりません。弁護士が独立しているからこそ、1に記したように依頼者の利益を徹底追求することができるからです。特に、交通事故被害者救済を主たる業務とする弁護士であれば、損害保険会社からの独立は最低限必要になります。例えば、損害保険会社と顧問契約を締結するために営業努力を行いつつ、その会社相手に厳しい交渉を行うことは難しいでしょう。そこで、岸正和法律事務所は、損害保険会社と顧問契約を締結しないことにいたしました。これにより、全事件についてあらゆる損害保険会社と徹底的に争うことが可能となるのだ、またお客様の信頼を得ることもできるのだと、私は考えています。確かに、事務所経営の安定を考えると大きな会社の顧問というのは魅力的なものではありますが、敢えてそれを潔く捨てることこそが、弁護士の誇りや矜持そのものではないでしょうか。良い弁護士には、痩せ我慢がよく似合うものです。また、岸正和法律事務所の開業資金は、全て私、岸正和の個人資産により賄われたものです。今後も、他者からの出資や融資を受けることはあり得ません。それにより、岸正和法律事務所の経営から個別の事件処理に至るまで、全て私の良心、信念やこの事務所根本理念に忠実に行うことが可能となるのです。ちなみに、おかしな事件処理を繰り返す弁護士や不祥事を起こす弁護士に共通する特徴は、その財務基盤が極めて脆弱であるということです。
最後に3についてですが、岸正和法律事務所がある大阪市天王寺区及びその周辺には優れた医療機関が多数ございます。弁護士が交通事故被害者の方について適正な後遺障害等級を獲得するためには、優れた医療機関及びその医師との共同作業が必要不可欠なのです。したがって、地域の医療機関との連携にも力を注いで参りたいと考えています。医師は被害者の身体的な傷を癒し、弁護士は被害者の経済的な傷を癒すものです。交通事故被害者の問題を地域社会の問題とし、弁護士と医師が力を合わせて問題解決を目指すということは、極めて重要な視点であるものと思料いたします。また、これ以外にも弁護士ならではの地域社会への貢献方法というものは多数ありますので、今後それらも実行していくつもりでございます。
これら3つの根本理念を全ての判断の出発点として、この法律事務所を経営し、また個々の事件を処理していくことを、皆様にお誓い申上げます。
最後に、天台宗の僧侶であった私の祖父が尊敬してやまなかった宗祖根本伝教大師最澄さまが、比叡山に根本中堂を建立された際の御詠歌を引用して、拙文の結びに代えることといたします。
阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)の仏たち我が立つ杣(そま)に冥加あらせ給へ
平成27年9月吉日
岸正和法律事務所
弁護士 岸 正和