前回も述べたとおり、後遺障害逸失利益における差額説とは、後遺障害がなかったら被害者が得られたであろう現金収入と、後遺障害がある結果、現実に得られる収入の差を逸失利益とするものである。とすれば、逸失利益を算定するに当たり、
①「後遺障害がなかったら被害者が得られたであろう現金収入」の算定
②「後遺障害がある結果、現実に得られる収入」の算定
③ ①から②を控除する
という計算過程がとられるはずである。
しかし、そのような判決文を読んだ記憶がない。
むしろ逸失利益の算定に当たり、裁判官は、基礎収入に労働能力の喪失率を乗じ、これに喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて算定している。このような逸失利益の算定方法が、差額説の反対説とされる労働能力喪失説に親和的であることは言うまでもない。
そもそもなぜこのような算定方法によりながら、自分は上記差額を算定しているのだと裁判官は考えることができるのかという、新人弁護士の頃からの疑問はこれからも解消することはないだろう。そこには論理的思考の痕跡が全く見えない。見えるのは、文系エリートの最終奥義である「空気を読む能力」のみである。
結局、現実の差額説は、裁判時までに収入の減少が現実化していない場合の後遺障害逸失利益を、0又は少額に抑えるための理屈である。そのためか、今日、裁判時までの短期間における収入の減少こそが差額説でいう「差額」であるかのような理屈を立てる法律家が散見されることが、残念でならない。