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交通事故損害賠償の「損害」とは?

2015年11月5日
7 H27.11.5 交通事故損害賠償の「損害」とは? その7

(6)装具・器具購入費等

 

車椅子、義足、電動ベッド等の装具・器具の購入費
→症状の内容・程度に応じて、必要かつ相当な範囲で認める

 

一定期間で交換の必要があるもの
→装具・器具が必要な期間の範囲内で,将来の費用も認める

 

将来の装具・器具購入費
→取得価額相当額を基準に、使用開始時及び交換を必要とする時期に対応して中間利息を控除する

 

(具体例)
30歳の男性が耐用年数5年の車椅子(単価10万円)を生涯必要とする場合の計算式
(前提)
・31歳男性の平均余命:49.37歳 
∴最初の購入後、9回買い換える(合計10回購入)ことになる
(計算式)
10万?(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112)
=10万?4.2162
=42万1620

 

(7)家屋改造費等

 

家屋改造費、自転車改造費、調度品購入費、転居費用、家賃差額等
→症状の内容・程度に応じて、必要かつ相当な範囲で認める

 

ただし、家屋改造費等につき、同居の家族がそれにより利便を得ていると認められる場合
→一定程度減額することがある

 

計算式の括弧内の数字は、5年ごとのライプニッツ係数を並べたものです。このような面倒くさい計算を省略するために、緑本124頁の表があるのですが、考え方を明らかにするためには、計算式を書いた方がよいでしょう。
ちなみに、括弧内の最後の数字である0.1112は45年後のライプニッツ係数です。前回記事の結びの表現を借りると、「現在価格10万円の車椅子の45年後の価格が10万円のままであるにもかかわらず、現金1万1120円を同じ45年間貯蓄等で運用すれば10万円に増える社会」を、現在の実務は前提として被害者の損害額を決めているということになります。前回、このような社会を「滑稽な」と評してしまいましたが、被害者側に立つ弁護士としては不適切な表現であったと反省しています。被害者にとっては全く笑えない話ですよね。仮に45年前にこのような社会を前提とした損害額計算による賠償を受けた被害者の方がいたとすれば、その直後に起こる所謂「狂乱物価」によって、受け取った賠償金の実質的な価値は暴落したことは明らかです。
緑本の41頁には、消極損害の逸失利益に関する説明の中で、「将来の一般的な賃金や物価の上昇(下降)は考慮しない。」という記載があり、更に逸失利益額の算定にあたり、「その後の物価上昇ないし賃金上昇を斟酌しなかったとしても、・・・不合理なものとはいえ」ないという判断をした最高裁昭和58年2月18日判決が紹介されています。あくまでも逸失利益額算定に関する判断の中において、物価上昇を考慮するか否かに関するはなしであり、これまで述べてきた問題とは一応別の問題であるものの、かなり類似する問題点に関する判断であると言えます。また、逸失利益額算定にあたり賃金上昇を考慮すべきかという点は、これまで述べてきた問題点とその背景が共通するはなしであると思われます。
このような物価上昇や賃金上昇を黙殺する(にもかかわらず中間利息は控除する)実務の損害額認定によって、これまでに賠償金を受け取った被害者の方の損害が、本当にてん補されてきたのか、大いに疑問です。被害者の方が判決後どのような人生を歩まれ、いかなる経済的困難に苦しまれたのかに関する追跡調査の必要性は高いと言えるでしょう。更に言えば、その経済的困難を裁判所は予見できなかったのか、予見できたとしてなぜそれを回避する意思を持たず、漫然と先例踏襲の罠に嵌ってしまったのかに関する研究も必要ではないのでしょうか。

 

手垢のついた表現ではありますが、これまで交通事故被害者は二度傷つけられてきたのではないでしょうか。一度目は加害者によって、二度目は裁判所によって。